素朴な疑問を研究テーマに—概説書の活用法
大学院進学を考えるにあたって,研究テーマで悩んでいる人が多い。素朴な疑問で終わってしまっているか,どこかで見たようなテーマになってしまっている,というのが典型ではないだろうか。
そもそも,よい研究テーマとは何か。これは難しい問題だ。伊丹敬之『創造的論文の書き方』(有斐閣)では,以下の点をよいテーマの要素として挙げている。
- 不思議なこと,せめて面白いこと
- 一言で言える
- 少しの無理
- 10年はもつ
すでに「研究計画書も1行で勝負(続)」というエントリで触れたことだが,今日は最初のポイントについて少し考えてみたい。
伊丹が述べている(p.129)ように,研究の根本は知的好奇心である(そうではない人はこれ以上読む必要はない)。つまり,自分が「知りたい,わかりたい」と思っていることを研究テーマにできればいちばんよいのだ。もう1つ考えなければならないのが,大学院という場のありようだ。最近は教育中心の大学院も出てきてはいるが,やはり大学院は基本的に研究を行うところだ。この点の帰結は大きく2点あると思う。1つは,単に調べただけでは結論の出ないような,ある程度「高度な」テーマである必要がある点,もう1つは基本的にはその研究を自分が中心になって,教員を中心とする大学院の「資源」を主体的に「活用」しながら進めていかなければならない点だ。自分が今持っている「素朴な疑問」を,この2つの条件を満たすところまで引き上げていくことができれば,それが「研究テーマ」になると言えるだろう。
この過程で活用すべきなのが概説書である。できれば大部のものがよい。すべて読む必要はない。まずはざっと眺めてみて,自分が知りたい,わかりたいと思っていること,あるいはそれに関連することが,当該学問分野でどのような扱い方をされているか,それについて語るときにどのような専門用語や概念を用いているかをまずは見ておく。そのうえで,自分の疑問と関連が深いと思われる章を精読していけばよい。よい概説書にはたいてい用語集(glossary)がついているから,それを手かがりにしながら,相互参照にも従いながらだんだん深く読んでいく。
ここまでの段階で,自分の疑問が学問的にはどのように扱われているかがある程度見えてくるはずだ。まだ十分高度なレベルではないが,学問的な言葉遣いで疑問を表現することも少しずつできるようになっているだろう。続いて着手すべきは関連文献を読むことだが,ここでもよい概説書はよき指南役となってくれる。章末や巻末の文献解題や,本文中の文献参照を手がかりに,特に関係の深そうな文献や当該分野の必読文献が見えてくるはずだ。また,すでにこうした文献を読むのに必要な最低限の知識も,概説書を読むことで身についているだろう。
大部の概説書を読み始めて難しいと感じる場合は,やや薄めの入門書を読む必要があるかもしれない。これはできれば通読することが望ましい。その学問のひととおりの基礎知識を得て,もう一度概説書に取り組んでいけばよい。
もちろん,こうした一連の作業は一人でやってもよいが,対話の相手がほしいと思うこともあるだろう。仲間といっしょに勉強してもよい。いっしょに勉強する相手がなかなか見つからない社会人にとっては,院試塾の「社会人のための大学院研究生活入門ゼミ」のような講座もある。
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