August 25, 2016

「要求水準ギリギリ」で切り抜けていては成長できない

 Tina SeeligのWhat I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the Worldは,この年齢前後の若い人たちにぜひ読んでほしい,示唆に富む1冊である。もちろんぼくは英語で読んでいるが,今回は内容をより多くの人に知ってもらいたいと考え,翻訳(高遠裕子訳『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』)から,大学生や大学院受験生を指導していて常に感じることに感応する記述があったので,紹介しておきたい。


光り輝くとは,いつでも期待以上のことをすると決意することです。裏返せば,期待される最低限のことしかしないのは,その[引用者注:光り輝く]機会を自分で台無しにしていることになります。学校の訓辞みたいだと思われるかもしれませんが,これは真実です。逃した機会を足し合わせると,大赤字になります。おなじ一〇〇ドルを,利回りが五パーセントと一〇五パーセントの商品に投資した場合の違いを想像してみてください。時を追うごとに,その差は大きくなります。これが人生に起きていることなのです。自分が投資したことは,自分に返ってきます。そして,日々,その結果が蓄積されているのです。(p.192)

最低限の努力で最高の結果を,と試験文化に毒されている人たちは考えがち(Seeligも別の箇所で「これは試験に出ますか」という学生のありがちな発言をとりあげている)なのだが,実はそれは「貴重な学びの機会」を自分で台無しにしているのである。学生を指導していて,その人の成績や自信と実力とが食い違っているのに「あれっ?」と思うことがあるのは,おそらくこの蓄積があらわになって「メッキが剥げ」ているからなのではないかと思う。

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辞書に書いていないことを文法的に考えてみる

 辞書に書いていないことはどうすればわかるのか。自分の頭で考えるというのが1つの方法であり,そのための枠組みが文法なのである。そのような考えかたが必要となる実例をいっしょに検討してみよう。


You would assume that meetings with Fern would take place in her office. But Fern is also an avid athlete, so when you want to discuss a new venture with her, be prepared to join her for a strenuous hike. Everyone who knows Fern knows to wear walking shoes and carry a bottle of water to a meeting with her. (Tina Seelig, What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World, Amazon Kindle版位置No.1757)

下線部のknow to wearはどのような意味を表すのであろうか。knowの目的語がto不定詞であることを手がかりに語法表記を確認しながら辞書の記述を当たってみても,適切な語義は見あたらない。このような場合,動詞の目的語にto不定詞が鳴っている場合にどのような意味になるかを考えてみるとよい。たとえば,remember / forgetなどの動詞にto不定詞が続くと,to不定詞が「未来の意志・義務」を表す。これと関連づけて考えれば,「履いていかなければならないことを心得ている」といった意味ではないかと考えることができる。
 このように思考するためには,remember to V / forget to Vの意味を訳で覚えているだけではダメで,このto不定詞が「未来の意志・義務」を表すと考え,そこから意味を自分なりに組み立てて考えている必要があるのである。

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英文読解における頭の働かせかた

 英文読解においては構造を適切に理解しながら語の意味・用法を正確に検討したうえで文の解釈を決定する必要がある。英文読解が苦手な人には,この頭の「働かせかた」が身についていない人が多いように思われる。この頭の「働かせかた」を具体的に実例で確認してみよう。


One of the biggest things that people do to get in their own way is to take on way too many responsibilities. (Tine Seelig, What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World, Amazon Kindle版位置No.1742)

この英文で特に初学者に難しいと思われるのが,take on way too many responsibilitiesの部分ではないだろうか。まず,take on Aが句動詞で「〈仕事・責任などを〉身に負う,引き受ける」(『プログレッシブ英和中辞典』)という意味である点を正確に確認する必要がある。この語義ではAに「〈仕事・責任などを〉」に相当する名詞が来るはずだから,take on [A]responsibilitiesというのがこの部分の軸となる構造であると判断できる。
 となると,way too manyはresponsibilitiesを修飾する形容詞のかたまりであると判断でき,このかたまり中心はmanyであるとわかる。これに副詞tooがかかっており,さらにwayがかかっているわけである。
 ここから先が英文読解が苦手な人がたどることのできない思考の道筋である。つまり,wayがよく知っている名詞の「道」という意味ではなく,副詞tooを修飾する副詞であると判断しなければならないのである。辞書を引いて意味を確かめようにも,品詞の段階で間違えていては正しい語義には行きつくことができない。wayの副詞の意味を辞書で見ると,「[副詞・前置詞・比較級を強めて;普通は肯定文で] ずっと,はるかに」(『ルミナス英和辞典』)というのがあって,ここで副詞tooを強めているwayはこの意味で解釈すればよいことがわかる。
 以上の思考過程をへれば,問題の部分は「あまりに多くの責任を引き受けすぎる」という意味であると正しく解釈できるのだが,「雰囲気」や「思い込み」で読んでいてはこの正しい理解にはなかなかたどり着けないのである。
 同じ本から同じく副詞のwayの例を挙げておくので,確認のための練習問題として取りくんでほしい。

Ashwini's work was exemplary, she was a terrific team player, and she always went way beyond what was expected. (ibid. Amazon Kindle版位置No.1793)

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「クジラの構文」の実例をさらに

 いわゆる「クジラの構文」については,実例とともにこのブログでも何度かとりあげているが,今読んでいる本でも実例に出会ったので紹介しておきたい。毎回言っているが,「クジラ・ウマ・魚」でなくても理解できるかどうかがこの構文が本当にわかっているかどうかの「カギ」であろう。


As my panic subsided, I laughed at my ridiculous fear. The horse knew exactly what she was doing. She'd walked this path a hundred times, and she had no more interest in tumbling to her death than I had. (Jonathan Haidt, The Happiness Hypothesis: Finding Modern Truth in Ancient Wisdom, Amazon Kindle版位置No.193)

下線部は「私と同じようにウマも転落死などしたくはなかった」という意味である。

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聖書表現をもとにした英語表現

 英語を学ぶうえで,キリスト教の聖書,特に新約聖書の英語表現はきわめて重要である。ぼく自身も新約聖書は英語の何種類かの翻訳(イギリス・アメリカ両方でかなりの種類の翻訳がある)で読んだし,イギリスの著名な言語学者であるDavid Crystalにも聖書の英語表現を題材とした著作Begat: The King James Bible and the English Languageがある。今回は聖書の知識がないと少しわかりにくい表現の例をとりあげてみよう。


Recent psychological research has uncovered the mental mechanisms that make us so good at seeing the slightest speck in our neighbor's eye, and so bad at seeing the log in our own. (Jonathan Haidt, The Happiness Hypothesis: Finding Modern Truth in Ancient Wisdom, Amazon Kindle版位置No.145-51)

下線部を正確に理解するためには,聖書の以下の記述に親しんでいる必要があると思われる。

Judge not, that you be not judged. For with the judgment you pronounce you will be judged, and with the measure you use it will be measured to you. Why do you see the speck that is in your brother's eye, but do not notice the log that is in your own eye? Or how can you say to your brother, 'Let me take the speck out of your eye,' when there is the log in your own eye? You hypocrite, first take the log out of your own eye, and then you will see clearly to take the speck out of your brother's eye. (English Standard Version, Matthew 7:1-5)

ここでは,相手の欠点をthe speck in your brother's eye,自分の欠点をthe log that is in your own eyeと表現している。上のHaidtの引用例でも,the slightest speck in our neighbor's eyeは「他人のほんの小さな欠点」,the log in our ownは「自分の欠点」という意味である。なお,このEnglish Standard Versionではlogを使用しているが,beamやplankを使用している翻訳もあり,King James Bibleではbeamを,New King James Versionではplankを,それぞれ使っている。参考までに,日本語聖書(新共同訳)の該当箇所も引用しておこう。

人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである。あなたがたは、自分の裁く裁きで裁かれ、自分の量る秤で量り与えられる。あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか。兄弟に向かって、『あなたの目からおが屑を取らせてください』と、どうして言えようか。自分の目に丸太があるではないか。偽善者よ、まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からおが屑を取り除くことができる。

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August 22, 2016

名詞化形の用法と意味―failureを例に

 まずは名詞化形の可算・不可算と意味の関連について簡単に整理しておこう。


  1. 【不可算】「~する(という)こと」[過程読み]

  2. 【可算】(a)「~したもの」[結果読み]/(b)「~する(という)こと」[過程読みを個別化して回数を数える]


以下の引用のfailureの解釈を上の区別で考えてみよう。

If you do take a risk and happen to fail, remember that you personally are not a [2a]failure. The [2b]failure is external. This perspective will allow you to get up and try again and again. Your idea might have been poor, the timing might have been off, or you might not have had the necessary resources to succeed. As Jeff Hawkins says, "You are not your company. You are not your product. It is real easy to think you are and it is real easy to get wrapped in it .... But if you fail, or even if you are successful, it is not you. Your company may fail, your product may fail, but you aren't the [2b]failure. Keep in mind that [1]failure is a natural part of the learning process. If you aren't failing sometimes, then you probably aren't taking enough risks. (Tina Seelig, What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World, Amazon Kindle版位置No.1092)

(2b)の回数読みが明確なものは残念ながら出てきていないが,the failureとなっている例はいずれも特定・個別化された失敗の事例を指しており,回数読みの例と考えることができるであろう。同じ本から回数読みの複数形の例を挙げておこう。

Publishers, toy makers, movie producers, and venture capitalists understand that the path to success is littered with failures. (ibid. Amazon Kindle版位置No.863)

なお,上記の一般的知識を持っていないとしても,辞書をきちんと見れば同趣旨の情報はきちんとえることができる。

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August 15, 2016

-ing形形容詞の解釈―隠れている目的語を意識する

 動詞の現在分詞から派生している-ingという形の形容詞の意味は,派生元の動詞が他動詞であることとその動詞の目的語が意味に隠れていることとを意識するとうまく解釈できる場合が多い。たとえば,surprisingは「〈人〉を驚かせる」という意味の他動詞surpriseから派生しており,「〈人〉を驚かせるような」→「驚くべき」という意味になる。また,このような形容詞は-ingという形で辞書に載っていることが多いので,派生元の動詞だけではなく-ing形で辞書を引いてみることも有効である。このような解釈が有効な例を見ていこう。


These stories highlight an important point: a successful career is not a straight line but a wave with ups and downs. Michael Dearing describes this wonderfully with a simple graph that maps a typical career, with time on the x-axis and success on the y-axis. Most people feel as though they should be constantly progressing up and to the right, moving along a straight success line. But this is both unrealistic and limiting. Tina Seelig, What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World, Amazon Kindle版位置No.965-71)

下線部のlimitingは他動詞limitから派生しているわけだが,そう考えるだけではなく,「隠れている目的語は何だろうか」と考えてみると,それが「行動の自由」ではないかと考えることができ,それゆえ「〈行動の自由〉を制約するような」→「きゅうくつな」という意味ではないかと考えることができるわけである。また実際,limitingで辞書を引けば,「きゅうくつな」という意味があることも確認できるのである。

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August 09, 2016

漢語の訳語に頼りすぎると訳文が意味不明になる

 日本人が英語と向き合うときに,「訳語」の問題は避けて通ることができないであろう。明治期に欧米語を通じて欧米の思想や科学を「輸入」しようとした時に,漢字熟語の「翻訳語」を作って使ったことがおそらくは契機となって,それ以降の英語学習でも漢字の熟語を「訳語」として当てはめるという習慣が残ったのであろう。ところが,これが行きすぎると「意味不明」な訳文ができあがってしまうのである。そのような例を見てみることにしよう。


As we passed him a bowl of fruit, and he felt the fruit with swift, sensitive, skilful fingers, his face lighted up, and he regained his animation. He gave us, as he handled the fruit, remarkable tactile descriptions, speaking of the waxy, slick quality of the plum skin, the soft buzz of peaches and smoothness of nectarines ('like a baby's cheeks'), and the rough, dimpled skin of oranges. He weighed the fruits in his hand, spoke of their weight and consistency, their pips and stones; and then, lifting them to his nose, their different smells. His tactile (and olfactory) appreciation seemed far finer than our own. (Oliver Sacks, An Anthropologist on Mars: Seven Paradoxical Tales, Amazon Kindle版位置No.2091-7)

下線部ははたしてどのような意味であろうか。漢語訳語に頼った訳では「触覚的(あるいは嗅覚的)理解」と言ったあたりになるのだろうか。しかし,先行部分を注意深く読んでこの部分を解釈するならば,「さわって(あるいは匂いをかいで)理解できたこと」といった意味であろうと考えられるし,この方がずっと日本語としてわかりやすく,原文の内容をうまく伝えているのではないだろうか。

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August 07, 2016

英単語の意味―語源や基本義から考える学習法

 inspireという語の意味を皆さんはどのように考えているだろうか。一般的な英和辞典を引くと最初に挙がっている語義は「鼓舞する」といったもので,訳語で覚える学習をしている人が覚えているのもこれではないだろうか。しかし,以下のようなinspireもあるのだ。


I require my students to write a failure resume. That is, to craft a resume that summarizes all their biggest screwups―personal, professional, and academic. For every failure, each student must describe what he or she learned from that experience. Just imagine the looks of surprise this assignment inspires in students who are so used to showcasing their successes. (Tina Seelig, What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World, Amazon Kindle版位置No.786)

このinspiresの目的語は意味的にはsurpriseである(this assignmentの前に目的格の関係代名詞が省略されている)ので,このinspireの意味はたとえば『ルミナス英和辞典』が「〈人に〉〔ある感情・思想を〕起こさせる」としているものであるとわかる。
 この意味に新しく出会った人はどうすればよいのであろうか。ただこの訳語を記憶すべきリストに追加するのがよいのだろうか。人間の記憶はネットワークをなしていると言われ,既存の知識と関連づけたほうが記憶に残りやすいとされている。また,覚えようとする内容を何らかの形で「意味づけ」するほうが覚えやすいとも言われる。語源や中核的意味からの語義展開に注目する覚え方は,まさにこのような点から見て理にかなった覚えかたなのではないだろうか。
 語源を調べるには語源辞典というものがあって,研究社から『英語語源辞典』という本格的なものが出版されているのだが,専門的すぎて一般の人には使いにくいだろう。そこでお勧めしたいのが,三省堂の『英語語義語源辞典』である。この辞書であれば専門的な知識がなくても気軽に引いて使うことができるであろう。
 この辞書でinspireを引くと次のように説明してある。語源からの意味の派生がわかりやすく説明されている。

  • 本来「息を吹き込む」を意味する語で,人間に生命を吹き込む,人に神や神秘的な力によって霊感を与えると意味が拡大し,さらに感情や思想を相手の心の中に吹き込む感動を起こさせるなどの意となった。


 また,『英語語義ネットワーク辞典』は活用するのに認知言語学のやや専門的な知識が必要だが,このような知識は「つまみ食い」も可能なので,必要なことがらだけを学んで使うようにすると非常に有益な辞書である。この辞典でinspireを引くと次のような説明がある。

  • 「〈人に〉意欲を吹き込む」が中心義。人に自信と勇気を与えてある行動に積極的に向かわせることを意味する。芸術的動機などと関係する閃きについては,「〈人(の考え)・創作などに〉閃きを吹き込む」を意味する。また,中心義から語義が一般化すると「〈人などに〉(感情・考えなどを)吹き込む」を意味し,恐怖心を吹き込むような場合にも用いられる。ここから図と地が入れ替わって,〈感情・考えなどを〉(人などに)吹き込む」の意義が派生する。


どうだろうか。ただ訳語だけを暗記しようとするのに比べると,1つの単語を学ぶのに時間と労力はかかるものの,よくわかって記憶にも残りやすいのではないだろうか。

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ありがちな英単語学習の問題点

 多くの人は英単語の意味を覚えようとするとき,頻度の高い「訳語」で覚えようとする。しかし,これではうまくいかないことが多いのである。むしろ,語の持つ中核的な意味を優先して覚えるのが適切である。たとえば動詞practiceの意味を「練習する」で覚えている人が多いのだが,これはこの訳語が当てはまる場合が多いからということであろう。しかし,実際に英文を読んでいると,この訳語が当てはまらない場合も多い。ところが『英語多義ネットワーク辞典』という,言語学の知見をもとに語の多様な意味が中核的な意味からどのように派生しているかを記述している辞書を見ると,動詞practiceの意味は「〈物事を〉(習慣的に)実行する」という中核的意味を出発点として,対象が特殊化する過程をへて「とくに〈技術などを〉(習熟のために習慣的に)実行する:練習する,稽古する」や「とくに〈医術などを〉実行する:〈(医師・弁護士などの)業務を〉行う,開業している」といった意味が派生的にえられることがわかる。つまり,動詞practiceの意味は頻度の高い訳語である「練習する」で覚えるよりも,より中核的意味に近い「実践する」などで覚えておいて,それが「習得したい技術などを実際にやってみる」→「練習する」,「専門的技術を職業として実践する」→「開業する」のように学ぶほうがよいのではないだろうか。

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«助動詞の「過去形」の解釈